成果を最大化するには「適材適所」が欠かせません。本記事では、EOSが提唱するRight Person / Right Seat(正しい人 × 正しい席)の考え方をもとに、人と役割をどう配置すれば組織が力を発揮できるのかを解説します。
はじめに|正しい人でも成果が出ないのはなぜか?
「この人は会社にとって大切な存在だ」と思える人材でも、必ずしも成果が出るとは限りません。その理由は本人に問題があるのではなく、与えられている役割にミスマッチがある場合です。つまり、人材そのものと役割配置の両方が合っていなければ力は発揮されません。
EOS(起業家型組織運営システム)では、これを「Right Person / Right Seat(正しい人・正しい席)」と表現しています。
ここでいう「正しい人」とは、会社の価値観にフィットし、組織文化に適している人材のことです。
「正しい席」とは、その人が最も力を発揮できる役割やポジションを指します。
つまり「人が良いか悪いか」ではなく、「適した人が適した場所にいるか」を確認する考え方です。
① 適材適所を判断する3つの視点(GWC)
人材が役割に合っているかを判断するために、3つの視点を持つことが有効です。EOSではGWC(Get it / Want it / Capacity to do it)と呼ばれ、Yes/Noでシンプルに答えることが原則です。
項目 | Yesの場合 | Noの場合と対応 |
---|---|---|
G:理解しているか (Get it) | 役割の目的や責任を正しく理解し、行動に反映できている。 | 理解不足ならトレーニングや説明で改善可能。ただし繰り返し伝えても理解できない場合は適性を見直す。 |
W:やりたいと思っているか (Want it) | 役割に前向きで、モチベーション高く取り組める。 | 意欲が欠けていると長続きしない。他の役割への配置転換を検討すべき。 |
C:能力があるか (Capacity) | 必要なスキル・経験・時間を備えており、役割を果たせる。 | スキルやリソース不足はトレーニングやサポート体制で改善可能。特にリーダー育成では成長機会の提供が重要。 |
② 正しい人でも席を変えることで改善するケース

原則として、GWCはG・W・Cすべてが「Yes」でなければ適材適所とは言えません。1つでも「No」があれば、役割とのミスマッチが存在していることを意味します。ただし、実際の現場では「No」が出てもすぐに不適格と判断する必要はありません。改善や配置転換によって力を発揮できるようになる場合もあります。
例えば以下のようなケースでは、「席を変える」ことや「サポートを加える」ことで解決できる可能性があります。
③ 評価の結果よりも「対応」が重要
GWCの評価結果は「Yes/No」で明確に示されますが、それ自体がゴールではありません。大切なのは、その結果を踏まえて次にどう動くかです。リーダーに求められるのは「判定を伝えること」ではなく、「改善の道筋を共に描き、伴走すること」です。
評価は“診断”であり、処分ではない
GWCの判定は、あくまで現在の状態を示す“診断”です。Noがついたからといって即座にその人材を排除するものではありません。むしろ「どこが不足しているか」を明確にし、そこを改善するための出発点になります。
リーダーの役割は「解決策の設計者」
評価の場では、事実を伝えるだけでなく「次に何をすればYesに近づくのか」を一緒に考えることが重要です。
例えば「Capacityが不足している」ならトレーニングや補助を検討し、「Get itが不十分」なら役割の意図を再説明する。対応策を設計し、本人と共有することがリーダーの責任です。
“伴走”が信頼を生む
評価後に定期的な面談やフォローアップを続けることで、メンバーは「見捨てられた」のではなく「信じてもらえている」と感じます。特に女性リーダー育成では、この伴走型の関わりが成長意欲を引き出すカギとなります。結果よりもその後のサポート姿勢が、長期的な信頼関係を築き、組織の成果につながります。
このように、GWCの評価は「線を引くこと」ではなく「成長の起点」として扱うことが、EOSが強調するリーダーシップの本質です。
④ コアバリュー編とのつながり
本記事は、以前取り上げた「正しい人を見極める(コアバリュー編)」と対になる内容です。コアバリュー編では、まず会社の価値観に合致した人材=“正しい人”を採用・配置することが最初の責任だと説明しました。
正しい人を見極めた後に必要な視点
しかし、それだけでは不十分です。いくら価値観が合っていても、その人が本来の能力を活かせない「席」に座っていたら、成果は出せません。正しい人を見つけたあとは、その人が“正しい席(Right Seat)”にいるかを確認し、必要に応じて役割や配置を調整することが、リーダーに求められる責任です。
人に関する判断は経営の最重要テーマ
「人に関する判断」は経営で最も重要なテーマのひとつです。会社の方向性を決めるビジョンや戦略も、人材配置が誤っていれば実行に移すことはできません。つまり、コアバリューを軸に「正しい人」を見つけ、その人を「正しい席」に導く一連のプロセスが、組織の成果を左右します。
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まとめ|適材適所が成果を生む
正しい人が正しい席に就いたとき、組織は最大の成果を発揮します。言い換えれば「適材適所」です。どんなに優秀な人材であっても、合わない役割に置かれてしまえば力を発揮できません。
GWCによるシンプルな「Yes / No」判定は、迷いを減らし判断を明確にします。そして、評価の結果を事実として受け止め、その後の改善対応を重視するEOSの考え方は、女性リーダー育成にも大きなヒントとなります。
特に女性リーダーは、人の特性や気持ちに気づく力を持っています。その感性を活かし、メンバーが「適材適所」で活躍できるように配置を工夫することで、チームも会社も大きな成果を出しやすくなるのです。
書籍紹介
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。Right Person / Right Seat(正しい人 × 正しい席)の考え方をはじめ、L10ミーティングや石(Rocks)、スコアカードなど、組織運営に欠かせないツールが体系的に解説されています。人材配置の悩みを「仕組み」で解決したいリーダーにとって、必携の一冊です。
▶『TRACTION』ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
ジーノ・ウィックマン 著
『Get a Grip』は、EOSを物語形式で学べる実践的な書籍です。ある会社が「適材適所」に悩みながらも、EOSを導入していくプロセスが描かれており、リーダーが直面する葛藤や解決の手がかりがリアルに伝わります。読みやすさと実践への応用を兼ね備えた、リーダー必読の一冊です。
▶『Get a Grip』ビジネスを成功に導くEOS実践ストーリー
ジーノ・ウィックマン、マイク・パトン 著