成長を目指す中小企業にとって、「やることを決める」以上に難しいのが「やらないことを決める」ことです。市場の変化に柔軟であることは重要ですが、方針がぶれるとチームは迷い、資源は分散します。
今回は、EOS(Entrepreneurial Operating System)が提唱する「コアフォーカス(Core Focus)」の考え方をもとに、自社の強みを見極め、集中する経営について解説します。
“ダイヤモンド”は远くにあるものではなく、身近に眠っている
『ダイヤモンドを探せ』に学ぶ「集中の経営」
19世紀のラッセル・H・コンウェルが語り続けた名講『ダイヤモンドを探せ』には、次のような教訓があります。
この講話は、EOSの基本書『TRACTION』でも紹介されており、「集中すべき価値は遠くではなく、すでに足元にある」という経営の本質を説いています。
本当の宝は、遠くにあるのではなく、すでに自社の足元に眠っている。
新しいチャンスを求めて外に目を向ける前に、いまの業務やメンバーに、まだ活かしきれていないポテンシャルが眠っているのではないでしょうか。
EOSにおける「コアフォーカス」の意味
コアフォーカスとは?
コアフォーカス(Core Focus)とは、EOSで使われる用語で、「自社の強みや情熱が重なる、最も集中すべき領域」のことです。
なんでも手を出すのではなく、「本来やるべきことは何か?」「なぜそれをやるのか?」を明確にし、組織のエネルギーを一点に集めるための指針となります。
EOSでは、ビジョントラクションシートの中に「コアフォーカス(Core Focus)」という項目があります。これは、事業の中心を明文化し、ぶれずに集中すべき方向を明確にするものです。
要素 | 内容 |
---|---|
① 経営理念(Purpose / Passion) | 企業が社会に対してどんな価値を提供しようとしているかという“情熱”や存在意義。短期的な利益ではなく、なぜこの事業を行うのかを定義する。 |
② ニッチ(Niche) | 他社では真似できない、自社の独自性が発揮される分野。強みと差別化要素が重なる“勝てる領域”を特定する。 |
この2つが重なる点に、実質的なコアフォーカスが生まれます。
「やらないことを決める」ことの重要性
コアフォーカスは、たとえば新規事業に手を出したくなったとき、「それは本来の自社の中心と合致しているか?」という問いかけの基準になります。判断に迷ったときは、コアフォーカスに立ち返ることが大切です。
「ぶれない経営」を実現するための3つの質問
① 自社の想いは明文化されているか?
成長意欲、社会貢献、現場支援…。なぜこの事業をやっているのか、その想いが社内で共有されているでしょうか。まずは“言葉にする”ことが出発点です。
② 最も強みを発揮できる分野はどこか?
単に総合力ではなく、他社に負けない特徴は何か? それを見極めることで、「勝ちパターン」が見えてきます。逆に、やらない分野を決めることも重要です。
③ 身につけ、磨き続ける覚悟はあるか?
コアフォーカスは“磨き続ける強み”です。人材、仕組み、時間。集中するからこそ力を発揮します。定期的に見直す覚悟を持ちましょう。
女性リーダーの活用も“足元の価値”である

多くの企業に眠っている未活用資源の一つが「女性人材」です。現場を支え、関係性をつなぎ、変化を察知する力──それらは、従来の評価軸では見過ごされがちですが、極めて戦略的な要素です。
コアフォーカス(Core Focus)を定め直す中で、今いる女性メンバーの中に「新しいニッチ」が眠っていることに気づく企業も増えています。
女性リーダーを“組織的な強み”ととらえ直すことは、足元のダイヤモンドに光を当てる行為ともいえるのです。
書籍で学ぶ「集中経営」の視点
- 『ダイヤモンドを探せ』(ラッセル・H・コンウェル)
成功や宝は遠くではなく足元にあると教える、ビジネスの名講。 - 『フォーカス』(アル・ライズ)
ブランド統一よりも、一点集中が勝つというマーケティング戦略書。 - 『TRACTION』(ジーノ・ウィックマン)
EOSの基本書。コアフォーカス(Core Focus)を含め、組織の“軸”を強化する6要素を解説。
集中するからこそ、見えるものがあります。ぶれない経営のために、足元の強みに光を当てていきましょう。