「捨てる勇気」「やらないことを決める」。
この数年、ビジネスの世界で頻繁に聞かれる言葉です。
確かに“やらないことを決める”ことは、生産性を高める上で欠かせません。
しかし、その前に考えるべき大切な問いがあります。
そもそも、自分たちは「やるべきこと」を理解できているのか?
軸がないまま削ぎ落とせば、ただの“迷走”になりかねません。
やらないことを決める前に、まずは「何を成し遂げ、どの領域で価値を出すのか」を明確にする必要があります。
EOSでは、経営者が“やるべきこと”に集中するための考え方とツールが用意されています。
アメリカの中小企業で広く導入されているEntrepreneurial Operating System(起業家型組織運営システム)は、会社が「やるべきこと」に集中できるよう、ビジョンの明確化・チームの一体化・実行の仕組み化を体系的に支援します。
EOSとは?
経営者やチームが「ビジョンを明確にし、実行を仕組み化する」ための実践的システム。
EOSの導入により、組織は“やるべきこと”に集中し、継続的に成果を出す体制を整えることができます。
この記事では、流行の「やらない勇気」をもう一歩深く掘り下げ、その“土台”となる考え方を考察します。
「やるべきこと」が見えないまま、削ぎ落とそうとしていないか
経営の現場では、タスク・情報・判断が絶えず押し寄せます。
気づけば「やるべきこと」よりも「やることリスト」に追われ、
“減らすこと”ばかりに意識が向いてしまう。
そんな状態になっていませんか?
多くの経営者が「やらないことを決めよう」とするのは、
本来の目的を見失うほどに、日々が忙しすぎるからです。
一見シンプルな整理術のように見えても、
「何を減らすか」だけに集中すると、“何を成し遂げたいのか”が見えなくなるという落とし穴があります。
それが曖昧なままでは、せっかくの「捨てる勇気」も、 単なる“空回り”に終わってしまいます。
“やらないこと”を決めるには、“やるべき領域”を定める
何かを「やらない」と決めるには、
その前提として「何をやるべきか」が明確でなければなりません。
そして「やるべきこと」を決めるためには、
まず“やるべき領域”を定める必要があります。
経営で言えば、それは「自社がなぜ存在するのか」「どんな分野で力を発揮できるのか」を見つめ直すことです。
この軸が定まっていない状態では、“やらないこと”を決めても一貫性が保てず、判断がぶれます。
やるべき領域が定まれば、何にリソースを割くべきか、 どんなチャンスに手を伸ばし、どんな誘いを断るべきか――。
その判断は格段にシンプルになります。
「削ぐ前に、定める」。 この順番こそが、成果を生む経営の原理です。
なぜ「削ぐ前に定める」が成果を生むのか
| 比較軸 | やらないことを先に決める | 軸を定めてから削ぐ |
|---|---|---|
| 判断の基準 | 感覚的・短期的 | 理念や目的に基づく |
| 意思決定の一貫性 | 場面ごとに揺らぎやすい | 全社で統一される |
| チームの納得感 | 「なぜやらないのか」が伝わりにくい | 「なぜやらないのか」が明確に説明できる |
| 成果の持続性 | 短期的にスッキリするが再び混乱する | 長期的な集中と成果を維持できる |
このように比較してみると、「やらないことを決める」だけでは一時的なスッキリ感に留まる一方、 軸を定めてから削ぐことで、判断の質とスピードが安定することが分かります。
つまり、やらないことを決めるための土台には、“定める力”が必要なのです。
「やらない勇気」よりも、「やるべき領域に集中する勇気」を

多くの経営者が「やらないことを決めよう」とする背景には、 「何かを減らせば前に進める」という直感があります。
けれども、削ぎ落とすだけでは前進は生まれません。
やるべき領域を定めるということは、
「ここで勝負する」と自らに宣言することでもあります。
その決断には、手を広げない勇気と、他を断る覚悟が伴います。
だからこそ、集中する勇気を持つリーダーは、強く、しなやかです。
“やらない勇気”という言葉の響きは魅力的ですが、 それは本来、“やるべき領域が明確な人”にしか発揮できないもの。
この視点の転換が、経営の質を根本から変えていきます。
“やるべき領域”を定めるためのヒント|EOSの「Core Focus」
“やるべき領域”を定める――。
言葉にすればシンプルですが、実際にはとても難しいことです。
なぜなら、経営者ほど多くのチャンスや情報に囲まれており、
どれも「やった方がよさそう」に見えてしまうからです。
そこで参考になるのが、アメリカの中小企業で広く導入されている
EOS(Entrepreneurial Operating System) の考え方です。
EOSでは、会社が本当に集中すべき領域を明確にするために
「Core Focus(コアフォーカス)」 というツールを使います。
Core Focusは、会社の存在目的(Purpose / Cause / Passion)と
得意分野(Niche)を掛け合わせたもので、
自社が“情熱と強みが交わる場所”に集中するための指針です。
いわば「やるべき領域」を定めるためのコンパスのような存在です。
ただし、このツールを実践的に機能させるには、 一定の時間とプロセスが必要です。
本格的に取り組む際は、書籍『TRACTION』を読み込むか、 専門家であるEOSインプリメンターと並走して進めるのがおすすめです。
まとめ|「やらないことを決める」その前に、“定める力”を育てよう
「やらないことを決める」「捨てる勇気」。
この言葉の裏には、誰もが抱える“忙しさ”や“迷い”があります。
だからこそ、いま一度立ち止まって、
「自分たちは何を成し遂げたいのか」を見つめ直す時間を持ちたいものです。
やらない勇気を持つ前に、やるべき領域を定める。
削ぐ前に、定める。
その小さな順番の違いが、経営の質を大きく変えていきます。
いま、目の前にある選択肢の中で迷ったら、
まずは「自社が本当に価値を出せる領域はどこか?」を問い直してみてください。
その問いが明確になるほど、“やらないこと”の判断もシンプルになっていきます。
やらない勇気は、やるべきことが見えた先に生まれる。
今日からその“定める力”を、少しずつ鍛えていきましょう。
書籍紹介|『TRACTION』で“やるべきこと”を仕組み化する
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。
本書では、会社が“やるべきこと”に集中し続けるための具体的な仕組みが紹介されています。
Core Focus(コアフォーカス)をはじめ、 L10ミーティング(10点満点ミーティング)、石(Rocks)、スコアカードなど、 経営者やリーダーが「複雑さを捨て、シンプルに前進する」ためのツールが体系的に学べます。
流行の“やらないことを決める”を超えて、 “やるべき領域に集中し、成果を仕組みで再現する”ための考え方を身につけたい方に最適な一冊です。
▶ 『TRACTION』 ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
ジーノ・ウィックマン 著
