「この人は育てればきっと伸びる」「経験は浅いけど期待できそう」──そんな思いで採用したものの、期待通りの成果が出ずに悩んだことはありませんか?
社長や経営層の期待は大きい分、採用後にミスマッチが起きやすいのです。
やはり採用の鉄則は「好きこそ物の上手あれ」。これはGWCのWant it(やりたい)にも直結しています。
EOSの採用基準は「席が先、人が後」
EOS(Entrepreneurial Operating System)では、まずアカウンタビリティチャートを作成し、組織に必要な「席(=役割・ポジション)」を明確にします。その上で「この席に座れるプロ」を採用するのが基本です。
つまり「この人を育てればなんとかなるだろう」という考え方は、EOSの原則から外れてしまいます。
したがって、必要な席にすでに実力を持つプロを配置すること。これが採用の大前提となるのです。
GWCで見極める人材採用の軸
- Get it(理解できる):その役割や仕事を本質的に理解しているか
- Want it(やりたい):好きで主体的に取り組む意欲があるか
- Capacity to do it(できる能力がある):時間的・能力的に実行できるか
特に「Want it」は「好きこそ物の上手あれ」と直結します。なぜなら、好きだからこそ努力が苦にならず、成果を出す人材へと成長するからです。
「好き」が成果を生む理由
「好きだから得意になる」のは感覚的にも理解できます。しかし採用の現場では、意外とこの要素を軽視しがちです。そこで「好き」が実際にどのように成果に直結するのかを整理しました。
比較項目 | 好きなことを任せた場合 | 興味が薄いことを任せた場合 |
---|---|---|
成長スピード | 自主的に学び続け、短期間でスキルが磨かれる | 必要最低限しか学ばず、成長が遅い |
成果 | 任された以上の提案や工夫を加え、期待以上の結果を出す | 与えられた範囲をこなすだけで精一杯になる |
モチベーション | やりがいを感じ、長期的に高いパフォーマンスを維持する | ストレスが溜まり、離職につながる可能性が高い |
成長スピード
好きな分野は「もっと知りたい」と自然に思えるため、自主的に学び続けます。さらに新しい知識をキャッチするアンテナも敏感になり、結果として短期間で専門性が高まります。嫌々学んでいる人との差はすぐに出てくるのです。
成果
好きなことを任されると「もっと良くしたい」という気持ちが自然に湧きます。そこで与えられたタスクに加えて自分なりの工夫や改善を盛り込むようになります。こうした姿勢が、期待を超えるアウトプットを生み出し、周囲からの信頼を厚くするのです。
モチベーション
好きなことを仕事にしている人は、日々の業務をストレスではなく挑戦として捉えます。そのため小さな成功が次の意欲につながり、困難に直面しても前向きに取り組めます。結果として長期的な成果と安定したパフォーマンスを支えるのです。
“その道のプロ”と“期待採用”の違い
採用では「即戦力のプロ」と「期待を込めて採用した人」とで、その後のキャリアや成果が大きく異なります。ここでは両者を比較し、どのような差が生まれるのかを整理しました。
項目 | その道のプロを採用 | 育成ありき・期待で採用 |
---|---|---|
立ち上がり | 即戦力としてすぐ成果を出す | 時間がかかり、成果が見えるまで遠い |
経営層の安心感 | 任せても安心できる | 「本当にできるのか?」という不安が続く |
本人の成長 | 得意領域を伸ばし、自信を深めていく | 苦手意識が先立ち、自己肯定感を損なう |
メリット
“その道のプロ”を採用すれば、即戦力として成果が出やすく、経営層の安心感も高まります。加えて本人も得意領域を伸ばすことで自己肯定感を深め、長期的に活躍してくれるのです。
デメリット
一方で「期待採用」では成果が見えるまでに時間がかかり、経営層に不安が募ります。さらに本人も苦手意識を抱えやすく、自信を失う恐れがあります。結果的に離職につながることもあるのです。
眠っている“女性のプロ人材”を見極めるリーダーの眼

出産や育児などで一時的にキャリアを中断した女性は少なくありません。しかしその中には、かつて第一線で活躍していた“その道のプロ”が数多く眠っています。復職を望む彼女たちは、正しい環境と役割を与えられれば、即戦力として再び輝く可能性を秘めています。
女性リーダーに求められるのは、この眠れるプロ人材を見極め、適切に活かす力です。とはいえ期待や応援だけで採用するとミスマッチになりがちです。そこでEOSのGWCを基準にすれば「好きで得意」「できる能力がある」人材を冷静に選ぶことができます。
眠っている“女性のプロ人材”の例を挙げると、次のような領域があります。
- コーディングのプロ(システム開発の即戦力)
- システムエンジニアのプロ(ITインフラや設計の専門家)
- 接客のプロ(販売・ホスピタリティで培ったスキル)
- 総務や経理のプロ(組織運営を支える管理部門の経験者)
- 人事のプロ(採用・育成・制度設計に強みを持つ)
- マーケティングのプロ(市場分析・広告運用・PR経験者)
- デザインのプロ(グラフィックやUI/UXで成果を出してきた)
- 教育・研修のプロ(人材育成や研修企画の経験が豊富)
こうした人材は「ブランクがあるから」と見過ごされがちです。しかし好きで得意な分野に戻れば、短期間で力を発揮できます。女性リーダーこそ、感情に流されずEOSの基準で見極め、眠れるプロを再び舞台に引き上げる存在であるべきなのです。
まとめ:期待ではなく仕組みで採用する
「育てれば何とかなる」「期待すれば伸びる」という幻想にとらわれるのは危険です。
しかしEOSのアカウンタビリティチャートとGWCを基準にすれば、必要な席にふさわしいプロを迎え入れられます。
つまり「好きこそ物の上手あれ」を採用基準にすれば、組織は期待以上の成果を上げることができるのです。
書籍紹介
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。組織運営の6つのコンポーネントやアカウンタビリティチャート(役割の席を明確にする仕組み)、GWCなどの採用・配置基準を体系的に解説しています。人材を「期待」ではなく「基準」で見極める重要性が学べる一冊です。
特に採用においては「適材適所の判断こそが組織の成長の鍵」であり、好きで得意な分野に人を置くことが成果を最大化すると説いています。今回の記事で触れた“好きこそ物の上手あれ”という考え方を、経営の仕組みの中で実践的に学べます。
▶『TRACTION』ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
ジーノ・ウィックマン 著
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