経営を進めていると、ふと「今、自分たちはどこに向かっているのか?」と迷子になる瞬間があります。短期的な課題や顧客要望に追われると、せっかくの長期ビジョンが見えにくくなってしまうのです。
そんな時こそ役立つのが、EOSのビジョントラクションシート(V/TO)=ビジョン。まさに「組織の北極星」といえる存在です。
経営者が陥りがちな「迷子状態」
中小企業の経営者は、日々の意思決定の連続です。その中で短期の揺れや突発的な課題に振り回されると、組織はすぐに「迷子状態」に陥ります。
女性リーダーの育成を考えるときにも、この迷子状態をどう防ぐかは大切なテーマです。
目の前の課題に振り回されるリスク
緊急対応に追われると、本当に重要な「石(Rocks)」が後回しになります。その結果、長期の成長戦略から外れてしまう危険があります。
スコアカードや石を変えたくなる心理
数字が悪いと、つい途中で目標を入れ替えてしまいたくなるものです。しかし、ここで軸をぶらすと組織全体の方向性が揺らいでしまいます。
だからこそ、数字が揺れた時こそ「なぜ設定したか」に立ち返ることが大切です。
短期視点の意思決定がもたらす弊害
短期的な判断だけを優先すると、長期ビジョンに沿わない行動が積み重なります。その結果、組織はやがて迷走してしまうのです。
一方で、ビジョンを見失わなければ判断の一貫性が保たれます。リーダー育成でも、この点は見逃せません。
組織の北極星=ビジョントラクションシート(V/TO)
ビジョントラクションシート(V/TO)は、EOSを導入する企業に欠かせないツールです。経営の長期ビジョンと日々の実行計画を「一本の線」でつなぎ、チーム全体を導く役割を果たします。
ビジョンが果たす役割とは?

ビジョンは単なるスローガンではありません。組織が「どこへ進むのか」を具体的に示す実行の道しるべです。
特に女性リーダーにとって、意思決定の自信を持つための強力な支えになります。
ビジョンを構成する7つの要素
ビジョン(V/TO)の構成要素 | 内容 |
---|---|
コアバリュー | 会社が大切にする価値観や信念を明文化し、人材採用や人事評価の基準として活用する。文化を組織全体に浸透させる役割を持つ。 |
コアフォーカス | 自社が得意とする領域と存在意義を明確にし、「何をやるか」「何をやらないか」の判断基準を提供する。 |
10年ターゲット | 組織が10年後に到達すべき数値目標や理想像を定め、長期的な方向性を社員全員が共有できるようにする。 |
3年計画 | 10年ターゲットを実現するために、3年後にどのような会社の姿を描くのかを具体的に示す。 |
1年計画 | 直近1年間で達成すべき重点目標を設定する。経営チームや各部署が同じ優先順位を意識できるようにする。 |
四半期の石(Rocks) | 90日という短期間で集中して取り組む重要課題を設定し、現場に実行力と達成感を生み出す。 |
課題リスト | 組織の成長を妨げる問題を洗い出し、L10ミーティングなどで議論・解決につなげる仕組みとする。 |
迷子になった時こそビジョンを見返す
経営を進めていると、日々の数字や突発的な課題に目を奪われがちです。そのため「この方向でいいのだろうか?」と不安になり、チームの足並みが乱れそうになることもあります。
しかし、あらかじめ描いているビジョン(V/TO)を見返せば、進むべき方向を取り戻せます。ビジョンは嵐の中でも進路を示す「北極星」なのです。
長期計画に立ち返って短期の揺れを整える
短期的な数字や状況は必ず揺れ動きます。売上が一時的に落ちることもあれば、想定外のトラブルが起きることもあります。
しかし10年ビジョンや3年計画を見直せば、その揺れが全体に与える影響はごく一部に過ぎないと気づけます。
例えば「今年の売上目標の達成率が一時的に80%に落ち込んだ」としても、長期の軌道は外れていません。だからこそリーダーは「焦らず、大局を見る」姿勢を持つことが重要です。
石とスコアカードを「未来につなげる」視点
ビジョンを見返すと、日々の行動が単なる業務ではなく未来をつくる投資だと理解できます。
- スコアカードは「今の行動が未来にどうつながっているか」を数字で示すもの。
- 石(Rocks)は「未来に進むために、今この90日で集中するべきこと」を明確にするもの。
この2つはどちらもビジョンを実現するための中継点です。
女性リーダーにとっても「数字や目の前のタスク」をただの管理ではなく、「未来への道筋」としてチームに伝えることで部下のモチベーションを高められます。
女性リーダーが投げかける問いかけ例
チームが迷子になりそうな時、女性リーダーが一言「問い」を投げかけるだけで雰囲気は変わります。例えば——
- 「この判断は、私たちの10年ビジョンとつながっているかな?」
- 「この石をやり遂げた先に、どんな未来が見えている?」
- 「数字の揺れを恐れてない?もっと長い目で見てみよう。」
これらの問いかけは指示や命令ではなく共に考える姿勢を示します。特に女性リーダーが発することで、メンバーは安心し、主体的に動けるようになります。
迷いを共有しながらビジョンに立ち返る姿勢は、チームを再び同じ方向に揃える大きな力となります。
ビジョンがあるから意思決定がぶれない
経営の意思決定は、その瞬間だけを見ると不安や迷いを伴います。短期の結果だけで判断すれば、組織は混乱します。
しかしビジョンという「北極星」があれば、判断の軸が明確になります。意思決定の一貫性が保たれ、社員に安心感を与え、経営チームに勇気を与える力となるのです。
「点」ではなく「線」で成果を捉える
短期の売上や数字は「点」に過ぎません。その点だけを見て右往左往すると、長期のビジョンに向かう「線」が途切れます。
例えば、1か月の売上が目標を下回っても、3年・10年の計画で補正できていれば問題ありません。
リーダーは「今の点を、長期の線につなげる」視点を持つことで、判断に安定感を生み出せます。
優先順位を決めることがリーダーの責任
経営資源は有限です。すべてを同時に行うことはできません。
だからこそリーダーは「何をやるか」だけでなく「何をやらないか」を明確にする必要があります。
ビジョンを基準にすれば、優先順位は自然と浮かび上がります。
例えば「売上アップ」より「顧客満足度向上」を優先すると決めたなら、それは10年後の理想像に合致しているからこそ選べるのです。
社員へのメッセージに一貫性を持たせる
経営者やリーダーが語る言葉は、社員にとって大きな影響力を持ちます。もしそのメッセージが毎回変わっていたら、社員は迷い不安を抱くでしょう。
逆に、常にビジョンを基準に語れば、社員は「会社はどこへ向かうのか」を理解できます。
特に女性リーダーにとって、ビジョンを拠り所に一貫したメッセージを発信することは、信頼を高める最強の武器となります。
まとめ:組織の北極星を見失わない経営
経営者やリーダーは常に「迷子」になるリスクを抱えています。しかしビジョン(V/TO)という北極星があれば、迷いを整理し正しい方向へ進めます。
特に女性リーダーにとって、このシンプルで強力なツールは、自分の意思決定に自信を与えてくれるでしょう。
- ビジョンを見返す習慣が「迷子状態」を防ぐ
- スコアカードや石(Rocks)も長期の北極星に向けて進めるもの
- 経営者自身が安心して前に進める
書籍紹介|『TRACTION』とは?
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。著者ジーノ・ウィックマンは、中小企業が迷子にならず成長を続けるために必要な「6つのコンポーネント」を体系的にまとめています。
特に本記事で取り上げたビジョントラクションシート(V/TO)は、『TRACTION』の中でも中心的に解説されている要素のひとつです。組織の方向性を一枚にまとめることで、短期的な迷いを整理し、意思決定の一貫性を保つ仕組みが紹介されています。
また、アカウンタビリティチャート(役割を明確にする仕組み)、GWC(Get it・Want it・Capacity to do it)といった人材配置の考え方も詳細に説明されています。
「人を期待で評価するのではなく、明確な基準で判断する」——この視点は、女性リーダー育成やチームの信頼関係づくりにも大きなヒントとなります。
迷子になりがちな経営に「北極星」を与え、組織を持続的な成長へ導く。『TRACTION』は、まさにその実践書です。
▶ 『TRACTION』ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
ジーノ・ウィックマン 著