「戦略も立てているし、数字も追えている。なのに組織が動かない」――そんな悩みを抱える経営者は少なくありません。
実は、会社の成長を止めているのは“知的な要素”ではなく、“関係性の歪み”です。
EOS(Entrepreneurial Operating System)では、成長する組織に必要な2つの要素として、Smart(スマート)とHealthy(健全)を挙げています。多くの会社は戦略・数字・スキルといった「スマートさ」を磨く一方で、「健全さ」を後回しにしがちです。しかし、長期的に成長し続ける企業は、例外なくこの“健全さ”を大切にしています。
EOSとは?
経営者やリーダーが「ビジョンを明確にし、実行を仕組み化する」ための実践的システム。
アメリカでは中小企業を中心に広く導入され、チームを“Smart(賢く)”かつ“Healthy(健全に)”成長させるためのツールが体系化されています。
この記事では、なぜ健全さが企業の成長に欠かせないのかを、経営の原理とEOSの視点から紐解きます。数字や戦略の「スマートさ」だけでは得られない、組織の“内側の強さ”を掘り下げていきます。
なぜ健全さが成長を左右するのか
経営は「人」と「数字」の両輪で回っています。
どれだけ優れた戦略や技術を持っていても、人の関係が壊れれば組織は止まります。リーダーの頭の中がどれほど“スマート”でも、現場の信頼関係が不健全であれば、成長のスピードは鈍化していくのです。
「人」と「数字」のバランスが崩れると、組織は止まる
健全な組織とは、仲良しグループのことではありません。率直に意見を交わし、問題を先送りせず、成果をチームで分かち合える状態のことです。
この“関係性の質”が整っているかどうかが、会社の成長曲線を決定づけます。
- 意見の違いを恐れず、率直に話せる
- 課題を個人ではなくチームで解決できる
- 誰もが同じ方向を見て前進できる
これらは一見、当たり前のように思えますが、実際にできている組織は多くありません。
健全さが失われると、チームは“静かに壊れていく”のです。表面的には平穏でも、会議で意見が出なくなり、ミスが共有されなくなり、やがて人が疲弊していきます。
| 観点 | Smart(スマート) | Healthy(健全) |
|---|---|---|
| 意味 | 知識・スキル・戦略など、論理的な強さ | 信頼・対話・文化など、人間関係の強さ |
| 焦点 | 個人の能力・成果の最大化 | チームの関係性・協働の質 |
| 短期成果 | 目標達成・効率化・業績の向上 | 信頼の蓄積・離職率低下・心理的安全性 |
| 長期成果 | スキルと戦略の進化 | 持続的成長と組織の安定 |
| リスク | 数字だけを追い、関係性が壊れる | 人間関係に偏り、方向性を見失う |
| EOSでの位置づけ | 「賢く動く」ための戦略・プロセス | 「強く続く」ための文化・信頼構造 |
この表からわかるように、「Smart」は知的な成果を、「Healthy」は人間的な成果を生みます。どちらか一方だけでは、会社の成長は持続しません。
EOSでは、この2つのバランスを保つことで、戦略と文化が噛み合った“強く、しなやかな組織”を実現できると説いています。
健全さは偶然ではなく「設計」でつくるもの
「健全な組織文化」は、偶然の産物ではありません。
誠実な人が集まっているだけでは育たず、リーダーが“意図的に設計”することで初めて定着します。ここに、EOSの考え方が生きてきます。
EOSでは、チームの健全さを高めるために、L10ミーティングやIDS(Identify・Discuss・Solve)といったツールを用いて、組織内の対話を「仕組み化」します。これにより、問題を溜め込まず、事実ベースで議論する文化を育てることができます。
健全なチームとは、課題についてオープンに話し合い、互いを信頼し、一緒に問題を解決するチームのことです。
– Gino Wickman & Tom Bouwer, What the Heck is EOS?
健全さとは「雰囲気の良さ」ではなく、課題に真正面から向き合える構造を持つことです。EOSのツールを活用すれば、その環境を仕組みで再現できます。
健全さが生む“強い組織”の共通点
では、具体的に健全な組織とはどんな状態を指すのでしょうか。
EOSの視点から見ると、そこには明確な3つの軸があります。
健全な組織の3つの軸
健全な組織には、いくつかの共通点があります。それは、信頼・対話・一体感という3つの軸で説明できます。どの企業にも当てはまる普遍的な原理であり、この3つが揃うことでチームの生産性とエンゲージメントは大きく高まります。
- 信頼:心理的安全性があり、率直な意見が言える
- 対話:事実を共有し、建設的に議論できる
- 一体感:方向性が明確で、目標をチームで追える
この3つの軸が揃うことで、チームの信頼は“感情”ではなく“構造”によって支えられるようになります。
信頼は“感情”ではなく“構造”で支える

健全な組織は、単に「雰囲気がいい会社」ではありません。むしろ、意見がぶつかり合いながらも、最終的に信頼で結びついている状態です。経営者がこの環境を整えることで、誠実な人が報われ、チーム全体が加速していきます。
共感と行動への促し
健全さは、数値や指標では測りづらい領域です。だからこそ、軽視されやすく、後回しにされがちです。しかし、健全さを育てることは、リーダーの“最大の投資”です。健全な文化があれば、スキルや戦略が自然と活かされます。
EOSでは、こうした“見えない資産”を可視化し、日々のミーティングや課題解決の仕組みに組み込んでいきます。もし今、チームの関係性に違和感を感じているなら、それは“健全さを整えるタイミング”です。
仕組みで整えることで、組織は驚くほど軽やかに動き出します。
ほとんどの組織は、管理が行き届きすぎている(過剰管理)一方で、リーダーシップが不足しています。つまり、賢明(知的)ではあっても、健全(健康的)ではないのです。
– Gino Wickman, Traction
戦略だけでは会社は動かない。リーダーの仕事は、健全さという“見えない基盤”をつくること。
それが、成長する会社が共通して持っている強さなのです。
まとめ|健全さは、会社を長く走らせる“エンジン”
「健全さ」は、短期的な成果よりも長期的な信頼を生む力です。
財務や戦略の「スマートさ」は必要不可欠ですが、それだけでは会社は持続しません。健全さとは、人と人、チームと組織の間に生まれる“見えない潤滑油”です。
健全な組織には、率直な対話・信頼・一体感があります。
EOSでは、これらを「偶然」ではなく「仕組み」で支えるための明確なツールが用意されています。L10ミーティングやIDS、アカウンタビリティチャートを通して、健全さを日々育てていくことが、会社を次のステージへ導く最短の道です。
リーダーの誠実さが“文化”に変わるとき、組織は一気に加速します。
健全さは、成長する会社が共通して持つ“静かな強さ”です。
書籍紹介|『TRACTION』と『What the Heck is EOS?』
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。
ビジョンの共有、L10ミーティング、スコアカード、Rocksなど、会社を「Smart」かつ「Healthy」に動かすためのツールが体系的に解説されています。特に、「Smart but not Healthy(賢いが健全でない)」という指摘は、多くの経営者に本質的な気づきを与える一文です。
▶ 『TRACTION』ビジネスの手綱を握りなおす 中小企業のシンプルイノベーション
ジーノ・ウィックマン 著
『What the Heck is EOS?』は、EOSを導入した会社の社員が「なぜこの仕組みを使うのか」を理解するための実践書です。
中でも、“A healthy team is one that talks openly about the issues, trusts each other, and solves problems together.”(健全なチームとは、課題を率直に話し、互いを信頼し、共に解決できるチームである)という一文は、組織づくりの核心を突いています。
▶ 『What the Heck is EOS?』ビジネスを前進させるEOSの実践ストーリー
ジーノ・ウィックマン/トム・バウアー 共著

