会議で「全員一致しないと決められない」と、いつまでも結論が出ない——そんな経験はありませんか?あるあるある、と思われる経営者も多いはずです。中小企業では特に、全員の顔色をうかがいながら合意を取ろうとします。その結果、決断が先延ばしになりがちです。しかし、EOSの考え方では「全員一致」にこだわることこそが組織を弱くし、成長を止める要因になると明言しています。
ここでいう「全員一致」とは、会議に出席しているメンバー全員が100%納得する形で合意することを指します。一方で「一致団結」とは、決定したことに対して全員が納得していなくても、決まった以上はチーム全体で協力することです。力を合わせて前進する姿勢のことを指します。この違いを理解することが、経営判断のスピードと成果を大きく分けるのです。
全員一致にこだわる経営の落とし穴
経営者が「みんなが納得するまで決めない」としてしまうと、決断はどんどん遅れます。やがて意思決定のスピードが落ち、競争環境に取り残されてしまうリスクが高まります。全員一致を目指すあまり、「安全で当たり障りのない結論」に流れるのも大きな問題です。
ジーノ・ウィックマンとジム・コリンズの視点
EOSの公式ガイドブック『TRACTION』の著者であるジーノ・ウィックマンは、経営において全員一致を求めることは危険だと語ります。それは、スピードを失う大きな要因になるからです。さらに、経営学者ジム・コリンズも数多くの企業を調査しました。その結果、「主要な意思決定で全会一致に至ったものは一つもなかった」と指摘しています。つまり、「全員一致」が必ずしも良い経営判断を意味しないことが、実証的にも理論的にも裏付けられているのです。
全員一致にこだわる経営 | 一致団結を重視する経営 |
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全員が納得するまで議論が続き、決断のタイミングを逃すことが多い。 | 最終決定者が判断を下す。多少の反対意見があっても、チーム全体で前に進める。 |
誰もが反対しない「無難な選択」に流れやすく、挑戦や革新が失われる。 | 決定後は一致団結する。だからこそ、大胆な挑戦や新しい取り組みに踏み出せる。 |
意見が割れると議論が堂々巡りになり、結局何も変わらないという事態に陥る。 | 決定後は全員が役割を果たす。迷いなく行動できるため、実行力が高まる。 |
リーダーは「決めて、団結させる」役割

健全なチームであれば、十回のうち八回は自然に意見が一致するでしょう。しかし、二回は意見が分かれます。そのときに求められるのが「最終決定者」の役割です。EOSの原著では「Integrator or the designated leader must make the final call」と表現されています。インテグレーターや指名されたリーダーが、最終決断を下す責任を持つのです。
女性リーダーの視点から
女性リーダーの育成においても「全員一致」へのこだわりは障害になります。共感力や調和を大切にするあまり、全員が納得するまで決められないことがあるのです。しかし、決定後に一致団結する文化を育めばどうでしょう。女性リーダーは自分らしさを保ちながら、リーダーとしての決断力を発揮できます。これはチームの信頼を得る大きな力となります。
経営スピードを守る合意形成のルール
全員一致をゴールにしてはいけません。意思決定は「前進するためのSolve」で終えることが鉄則です。つまり、Identify(特定)→Discuss(議論)→Solve(解決)の流れです。「解決」とは“次の一歩を決めること”。決まったら全員で一致団結して進める。これが健全な経営チームのあり方です。
まとめ:全員一致よりも一致団結
中小企業の経営においては、全員一致にこだわると決断が遅れます。その結果、競争に負けるリスクが高まります。大切なのは「全員一致」ではなく、「決まったら一致団結して前進する」ことです。EOSが示すように、最終決定者が責任を持って判断し、その後チームが一丸となることで、スピードと成果が両立します。女性リーダーにとっても、全員一致から一致団結への視点の切り替えは、決断力とリーダーシップを高める大きな一歩になるでしょう。
書籍紹介|『TRACTION』とは?
『TRACTION』は、EOS(Entrepreneurial Operating System)の公式ガイドブックです。本書にはL10ミーティング、石(Rocks)、スコアカード、そして「課題解決の十戒」などが紹介されています。経営者が意思決定をスピーディかつ健全に進めるための実践的な仕組みがまとめられています。全員一致にこだわらず、決断と一致団結で前進する考え方を学べる一冊です。
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ジーノ・ウィックマン 著